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2009.03/18(Wed)

乃木希典

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東京都港区指定文化財
有形文化財 乃木希典邸
旧乃木邸は、明治三十五年(1902)に新築されたもので、乃木希典大将夫妻が大正元年(1912)9月13日、明治天皇御大葬の日、明治天皇に従って殉死するまでここに住んでいた。将軍がドイツ留学中に見たフランス軍隊の建物を模範して建てたというもので、明治期の洋風建築が接客を目的とする豪華な建物か、和風住宅に洋風の応接室を付属させたものが多いのに比べこの邸宅は、軍人の家らしく、飾り気がなく簡素で合理的に作られている。建坪は168㎡、木造平家建、日本瓦葺で、傾斜地を巧みに利用し、建物全体に半地下構造をもつ。(案内板より)

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乃木さんを扱った本を4冊読みました。『坂の上の雲』(司馬遼太郎著)、『殉死』(司馬遼太郎著)、『坂の上の雲に隠された歴史の真実』(福井雄三著)、『名将 乃木希典』(桑原嶽著)。司馬さんの本は歴史小説、後の2冊は『坂の上の雲』の考察本です。司馬さんは乃木大将のことがお嫌いだったようで(汗)昭和42年6月別冊文芸春秋に『要塞』を発表して、乃木将軍や伊地知参謀長を無能者扱いにし、世間一般に大きな衝撃を与えました。更に輪をかけて乃木さんを誹謗した『殉死』を、続いて『坂の上の雲』を発表したのです。

『坂の上の雲』と『殉死』は司馬さんの独特の文体に魅了され、明治という時代を頭に浮かべながら読み進めることができました。明治のことも日露戦争についても、ほとんど知識のない私にとって『坂の上の雲』は先人の思いに触れるような感覚に陥る小説です。日露戦争についてもっと知りたいと気持ちがわき、いろいろと調べていくうちに『坂の上の雲』に書かれている事と史実には開きがあるのでは?という疑問を抱くようになりました。

『名将 乃木希典』の著者である桑原嶽さんの経歴を紹介します。
大正8年生まれ。昭和14年陸軍士官学校卒、砲術の専門家として、中国、ビルマ戦線、イワラジ会戦、シッタン作戦に参加。陸軍の少佐で終戦を迎えています。(20代の少佐ですからエリートですね)終戦後は警察予備隊(今の陸上自衛隊)に入隊、学校教官、司令部幕僚(参謀)、各級部隊長などを歴任した軍事(特に作戦面)のプロです。その桑原さんが旅順攻撃における乃木大将と伊地知参謀長の作戦に誤りがなかったことを論じているのですが、内容が専門的すぎて、私には理解不能(汗)。しかし、乃木さんが無能者でなかったことだけは、なんとなく理解できました。

司馬さんは天才的な歴史小説家であって学者ではありません。桑原さん曰く「戦国武将や幕末の志士などについては何を書こうと問題はあまりないと思うが、現代史となると問題が生じてくる。」・・・・たしかに。司馬さんの戦国小説は物語としては面白いのですけれども史実とは大きくかけ離れています。しかし、それはいいと思うのですよ。読者も作り話であることは百も承知していますから。ところが現代史の場合、真実とウソを混ぜつつ真しやかに語られると、読者は小説であることを忘れてしまいます。乃木愚将説を唱えれば世間の注目を引きますしね。桑原さんのおっしゃることはもっともです。

だからと言って『坂の上の雲』の歴史小説としての価値が下がることにはならないと思うのです。司馬さんは乃木大将が愚将であったことを言いたかった訳ではなく、太平洋戦争を明治という時代から見つめる必要性を説いたのではないでしょうか。私のような明治に関心を持たない者が新生国家に目を向けるきっかけを作ってくれた小説です。正直言うと、今まで幕末が大嫌いで新撰組も幕末の志士も苦手でした。(由緒正しい守護大名が好き・笑)これからは近代の始まりにも心を寄せなければならないですね。

次に『坂の上の雲に隠された歴史の真実』について。
著者は○翼的な思想を持っているのかな?海軍嫌いの陸軍好きのようです。神格化されている、陸軍大将乃木希典閣下を愚将呼ばわりする司馬は許せん!ということなのでしょう。話はそれますが、歴代の海軍トップは海軍左派と言われる人が多く、米内光政さんや山本五十六さん、井上成美さんらは右翼から命を狙われていたそうです。海軍は親英米派が多く、陸軍は親ナチ派が多かったため、ドイツとの同盟をめぐっては陸海軍の間で激しい対立がありました。それやこれやで海軍と陸軍は犬猿の仲となり、海軍は陸軍のことを「馬糞」「ケダモノ」と生理的に毛嫌いし、陸軍の連中は海軍のことを「腰ぬけ」呼ばわりしていました。陸軍がナチに心酔していたからでしょうか、著者が唐突に「ユダヤ人大迫害」を持ち出しているのには苦笑しました。しかしながら「ユダヤ人大迫害」の章は大いに納得する内容なんですよね~(滝汗)。

まぁ、明治を知らない私には乃木さんが名将であったのか愚将だったのかわかるはずもなく・・・・・。これ以上詮索することは止めておきます。のめり込みやすい性格ですから、自制しないと収拾がつかなくなりそう(笑)。

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先日行った乃木神社でペット用のお守りを買いました。

テーマ : 読書感想文 - ジャンル : 小説・文学

10:25  |  日露戦争  |  TB(0)  |  CM(5)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●乃木さんの邸宅

こんな質素なカテージ風とは想像もできませんでした。
「日本の一番長い日」の阿南邸のような純和風のものだと思っていました。
乃木さんを愚将というのも偏りすぎかもしれませんが、後の彼を賞賛する精神主義ガリガリたちの考えも嫌ですね。
陸軍嫌いというのは、実は私もそうです。これも固定観念だと言えばそうかもしれませんが、戦後の小説や映画、あるいは日記などの記録では、隠匿物資を横領したり、現地民間人への虐待、陰湿な部下いじめの記述が圧倒的に陸軍のものが多いですね。火の無いところに何とかと言いますが、やはりあの集団は非難されるべき理由が頑として存在します。それに反して、戦後企業のトップとして日本をささえてきた人たち、あるいし文学・芸術で名を呈した人物は圧倒的に海軍出身者が多いですね。なにか根本的に体質の違い、例えば「猿の惑星」でのチンパン種とゴリラの違いのようなものがあるのです。
スタンリーメタボリック | 2009.03.18(水) 19:33 | URL | コメント編集

●スタンリーさんへ

写真の乃木邸は下から見上げるように撮ったので、これでも大きく写っているのですよ。一番奥は乃木夫妻が自刃した部屋で、外から中を覗けるのですが、カメラを向けるのには抵抗がありました。敷地内にある資料館には自刃に使われた刀が展示されていました。
日本陸軍の精神的な礎を築いたのは乃木さんのような気がしてなりません。桑原さんの本を読むと(相当手こずって、読み終えるのに2週間ぐらいかかってしまいました。それでもよくわからなかった・汗)作戦面での失敗はなかったみたいなのですが、殉死するような精神体質は好きになれません。愚将か名将かは意見の分かれるところでしょうけれど、殉死したことは紛れもない事実ですものね。
>陸軍嫌いというのは、実は私もそうです
私もです!海軍の井上成美大将が面白いことをおっしゃっています。「東條英機は中学生くらいの知能しか持ち合わせていなかった」と。東條さんは真面目な人だったそうですが、陸大での成績は悪かったみたいです。理論的に説明できないことは精神で以って乗り越えようというのがイヤです。海軍は合理的な考え方をするので、戦後企業のトップとして日本をささえてきた人たちが多いのでしょうね。そうそう、私の好きな作家の阿川弘之さんも海軍出身です。
陸軍は陰湿な部下いじめをしていたのですか・・・・やりそうな雰囲気がありますものね~。やっぱり、やってましたか。
中国を侵略したのも二二六事件も三国同盟締結も、陸軍の連中が行ったことですからねぇ。海軍は陸軍に比べ、小さな所帯だったので、どうしても最後は陸軍に押し切られてしまうのですよね。海軍と陸軍の根本的に体質の違いは大きいです。陸軍がゴリラ軍というのは、よ~くわかります(笑)。猿の惑星のゴリラは兇暴でしたが、野生ではゴリラの方がチンパンよりも穏やかだそうですよ。一番好戦的なのは人間なのでしょうね。
マーちゃん | 2009.03.18(水) 20:29 | URL | コメント編集

乱読ですが、だいたい司馬さんの考えが分かりました。乃木さんは詩人なんですね。自分を悲劇の主人公に仕立てるというのですね。
「中朝事実」の解説は難しそうだし、その精神主義も嫌いなので読み飛ばしました。笑
二人が自害するのまで展開は小説ですが読み応えがありましたね。静子さんが気の毒で・・・。
乃木と伊地知が旅順での失敗で更迭をまぬがれたのは、明治天皇の愛情もありますが、記録的な失敗が知られると国際信用にかかわるためでもあるというのは勉強になりました。政治的配慮が現代に通じていて昔も今も変わらないですね。
それにしても児玉源太郎さんがいなかったら乃木さんはどうなっていたことでしょう。
「殉死」を読みました | 2010.11.18(木) 21:02 | URL | コメント編集

●以上はアラン・墨でした。

失礼しました。
アラン・墨 | 2010.11.18(木) 21:05 | URL | コメント編集

●アラン・墨さんへ

コメントくださっていたのですね。気付かず、お返事が遅くなってしまい、大変申し訳ないです。
以前はコメントの通知先を携帯に設定していたのですが、それを解除してしまったので、管理画面のコメント欄を見て焦りました。本当にごめんなさい。

『殉死』読まれたのですね~。司馬さんが『坂の上の雲』で、乃木さんを無能者扱いにする理由がわかったような気がします。それにしても散々な書かれ方で・・・。
軍服を着て寝ていたという話が頭にこびりついて離れないのですが、実際はどうっだったのでしょう。事実だとしたら、ちょっと病んでいたような気が(汗)。
殉死したというのは、明治天皇への忠誠もあったのでしょうけど、もしかしたら鬱の傾向にあった人なのかもしれませんね。それに付き合った静子さんが、ほんと気の毒です。健康な精神をもった人なら、道連れにするようなことはしなかったと思うのですよ。「死ぬのは自分だけでよい」と、夫人は生かすのが普通なのではないでしょうかねぇ。
戦国時代の敗将の妻は、夫とともに自刃することもありましたが、明治の世では特異な行動のような気がします。

>乃木と伊地知が旅順での失敗・・・
当時の日本は海外での評価を非常に気にしていたのでしょう。司馬さんも書かれておられますが、太平洋戦争の頃とはだいぶ違っていじらしいです。
でも現在の民主党は過剰な政治的配慮をするようになりましたが、こちらはいじらしいという感じではありません(汗)。

児玉源太郎さんは乃木さんと同じ長州人ですから、面倒をみてあげたのでしょうね。
マーちゃん | 2010.11.23(火) 10:19 | URL | コメント編集

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