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2012.10/23(Tue)

ゴーストライター

カメラは一艘の船が港に入ってくる様子を正面から捉える。闇の中、船の明かりが音楽と絡まり威圧的な雰囲気を醸し出す。それに呼応するかのように、フェリーに積まれた車のライトが不気味に光る。どしゃ降りの雨の中を次々に車が上陸していく。一台だけを残して・・・。続いて、荒波が打ち寄せる浜辺の風景が挿入され、観る者の心に不安と疑問を植え付ける。

theghostwriter_1.jpg

画面が一転し、オフィス街で食事をしている男性の会話を拾う。「政治なんて縁がない」声の主はゴーストライター(ユアン・マクレガー)で、食事相手から、元英国首相ラングの自叙伝の出版話を持ちかけられての返答だ。気乗りせぬまま、出版社へ行き面接を受けたところ、「仕事が速いこと」が評価され、仕事を任されることになった。米国で公演中のアダムに会いに行き、1ヶ月で原稿を仕上げろと指示される。すでに初稿があり、それを手直しするだけのこと、ゴーストライターにとって、困難な仕事ではない。深く考えずに引き受けてはみたものの、気がかりなことがあった。初稿を書いた人間は事故死(自殺?)していると言う。初稿は門外不出の状態でアダムの滞在先に保管されていた。何かある!担当者からゴーストライターに渡された参考資料が暴漢に奪われたのは、それが初稿だと思われたからであろう。ここで、ヤバイ仕事だということに気づくべきだった。25万ドルという破格の報酬も危険のサイン。あっ、それじゃ映画にならないか(笑)。

出発を待つゴーストライターの視線の先のテレビでは、ラング前首相の違法行為疑惑を伝えるニュースが流れていた。「英国特殊部隊を勝手に動かしアルカイダの容疑者4人を捕獲、CIAに引き渡した。」映画はきな臭さを発散させながら進んでいく。前首相はアメリカのとある島に滞在しており、そこへたどり着くには飛行機とフェリーの乗り継がねばならない。長い長い旅だ。船内には「1月12日に死亡死亡事件 目撃者を求む」というボードが掲げられていた。と、ここまでが、伏線が張り巡らされた導入部である。監督はロマン・ポランスキー。本作は『チャイナタウン』(74)とテイストが似ている。同じ監督が手掛けたものだから、そう感じるのかもしれない。もっとも、『チャイナタウン』は1930年代を、『ゴーストライター』は今を扱っているのだから、小道具やファッションを見る限り隔世の感はある。しかしながら、登場人物の相関や、映画の幕切れは『チャイナタウン』とほぼ同じだ。時代を現代にスライドさせて描いた本作が『チャイナタウン』と同様の高い評価を得たことは、ポランスキー監督が、今も高いポテンシャルを保っているからに他ならない。

ポランスキー監督の代表作と言われているものは、だいたい観ている。数々の名作を世に送っているが、私は『ローズマリーの赤ちゃん』が一番好き。我がジャックの『チャイナタウン』は2番目かな(汗)。最新作『おとなのけんか』(11)は未見なので、wowowで放送されれば観なければ!これは劇場に行くつもりだったのだが、なんとなく行きそびれてしまった。正直に言うと、『おとなのけんか』の監督がロマンスキーだと知らなかった(汗)。

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前首相を演じているのは『007シリーズ』のピアース・ブロスナン。過去に秘密がありそうなのだが、そのヤワな風貌は巨悪のイメージとは遠くかけ離れており、彼を裏で操る人物の存在を、ちらつかせている。はて、それが誰なのか?このような場合、怪しそうに見えない・・・つまり、ゴーストライターの味方っぽい人物が真のワルであることが多い。「鳶の油揚げをさらわれる」ような展開にはならないだろうから、だいたいの察しはつく。後は事件の背景だ。起こったことを羅列する。前首相の自叙伝を執筆中のライターが殺された。その後任は政治に無関心なゴーストライターが選ばれた。彼は前任者の持ち物に隠されていた意味深な写真を見つけたために、ミステリアスな事件に巻き込まれた。前首相は、国際刑事裁判所から戦犯の疑いをかけられた。前首相夫人がゴーストライターを誘惑した。ゴーストライターは、前任者の足跡を追い、CIAが一連の事件に関わっていることを知った。そして命をねらわれた・・・となる。ポランスキー監督は、これらの出来事を確かな計算によって組み立て、緊張感をフィルム全域にゆきわたらせている。スリルとサスペンスの盛り上げ方に隙がないのが、百戦錬磨のポランスキー監督らしい。ラストの負の余韻が後を引く。
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16:02  |  映画  |  TB(1)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2012.10/05(Fri)

プリースト

バンパイアとの戦いで荒廃した未来、人類は高い壁に囲まれた城塞都市で修道会の支配のもとに暮らしていた。ある日、修道会の戦士《プリースト》の一員である男のもとに、兄の家族がバンパイアに襲われ、幼い姪がさらわれたとの知らせが届く。プリーストは、安全なはずの都市に再びバンパイアの脅威が訪れたことを訴えるが、修道会は聞く耳を持たない。プリーストは姪を救うため、やむなく掟を破って都市の外へと旅立つが……。(wowowより)

Priest.jpg

本作を面白いと思った方、ごめんなさい。私、全然ダメでした。あまりにも、つまらなかったので、記念に記事にしておきます 冒頭の汚らしいアニメは何?センスないなぁ。説明的なナレーションや字幕で始まるのさえ、イヤなのに、これは酷い トーンも暗すぎて個体識別不能。テレビの色調を目一杯明るくして、やっと描かれているモノの輪郭がわかった。スクリーンだと、重厚な感じなのかしらん?プリーストとは、バンパイアと戦う修道会の戦士なんだとさ ナレーションでは兵器と紹介しているけど人間らしい。まず、この設定が気に入らない(汗)。集団で戦う修道士という発想が野蛮。比叡山の僧兵みたいなもの?顔の十字架はタトゥ?ペイント?あざ?シール?未来の話だそうだが、荒廃しすぎていて年代不詳の感じがする。最初に出てきた一家は、西部開拓民みたいだ。時代錯誤では?と思っていたら、唐突に電車が出てきて、ガード下を番傘をさした人々がうろついている。支離滅裂だよー、HELP!制作者の意図がわからない。

教会らしき場所でプリーストがパソコン画面に告解している。なんじゃい!薄気味悪いなぁ。声紋を照合させて、上司を呼び出し、打ち明け話を始めた。テレビ電話で未来感を出すというのが安直。発想の貧弱さに加えて、無意味な暴力シーンのオンパレードで、気分が悪くなった。ストーリーを構成している各要素は、どれも見たことがあるようなものばかりで新鮮味に欠ける。今時、列車の屋根での格闘って(笑)。それに、バンパイアと称しているものは汚いバケモノではないか。バンパイアに失礼だぞ(苦笑)。かのロジャー・コーマン先生も真っ青のチープな映画。

おわび:作品を罵倒するのは好きではないのですけど、ついつい書いてしまいました。素人のたわごとです。お許しを
14:50  |  映画  |  TB(1)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2012.10/01(Mon)

淑女と髭

昭和六年に公開されたサイレント作品。この映画は超面白い!!!フィルムが残っている奇跡に感謝。原作と脚色は北村小松氏、撮影は茂原英雄氏、撮影補助は厚田雄治(雄春)氏。ギャグマンとしてヂェームス槇の名がクレジットされている。ヂェームス槇は小津さんのペンネームである。

冒頭の剣道の試合が、まず可笑しい。しょっぱなから、ギャグの一斉射撃をあびせかけてくる。岡嶋(岡田時彦)が面を取ったと大げさにアピールするも、審判に認められず、試合は続行。すると、対戦相手はタイムをかけ、入れ歯をはずし、仲間に不具合を訴えている(笑)。貴賓席の宮様らしき少年(突貫小僧)は、シャボン玉を飛ばして遊んでいる。この時代に、皇族を茶化した映像が、よく検閲を通ったなぁ。ほんの数秒の描写だから、大目に見てくれたのだろうか、それとも見逃した?ナンセンスな世界ではなんでもあり?徹底的にふざけた痛快さがある。

試合はフェイントをかけた岡島が勝った。相手方は大将(斎藤達雄)が登場する。ソンキョの姿勢をとって、いざ試合!んっ?なんか変だ。やだ~、大将さん、面を被るのを忘れてるじゃありませんか(笑)。またまた、試合は中断。息詰まる勝負じゃなくて、行き詰まった試合ですな。ハプニングの後、互いにフェイントをかけ合う珍試合の末、岡嶋が勝利をおさめる。やおら面をとると、たいそう立派な髭がお出ましになった。まるで、原始人だ。髭の中に顔があるという感じかな。

hige.jpg

試合を見にきていた岡嶋の友人で、男爵家の行本(月田一郎)は、妹・幾子(飯塚敏子)の誕生日会に彼を招待する。岡嶋は己の考えるところの正装で男爵家へ向う。紋付羽織袴に学生棒帽を被り、下駄を履き、手にはステッキを持っている。途中、不良女モガ(伊達里子)に絡まれている広子(川崎弘子)を助けた。これに腹を立てたモガは、子分らしき二人の男に、岡嶋を襲わせたが、岡嶋のステッキが彼らを叩きのめす。竹刀をステッキに持ち替えての、再度の大立ち回り・・・岡嶋は戦う人なのだ。立ち去る岡嶋の背中にモガは怒りの言葉を吐く。「おぼえてやがれ!髭ッ面!!」岡嶋は、せせら笑いを浮かべて言い返した。「忘れよったって お前さんのその不格好な洋装は忘れられんよ!」まぁ、服装のセンスの問題でしょうが、私は岡嶋の装いの方が変だと思いますけどね。

カメラが行本家の内部を写す。調度品の豪華なこと!丸テーブルに背もたれの高いチェア、天井にはシャンデリア、ゴルフクラ壁にはゴルフクラブが無造作に立てかけられている。執事(坂本武)が岡嶋の来訪を告げると、行本の妹の顔が曇った。「お兄さんってば 又あの髭ッ面つれて来たの?帰して頂戴!あんな時代おくれ 大きらい!」アハハ、ここでも、髭ッ面と言われてる。この男、そう言われても仕方ないのかも。だって、ケーキを両手に鷲掴みして食べ、剣舞を舞い、妹とその友達を怖がらせるのだから。乙女を前で真剣を振り回したら、そりゃドン引きされますよ。この滑稽な舞いは誰が振り付けしたのだろう?撮影現場のノリが伝わってくる。失礼は承知の上で申し上げる。馬鹿だなぁ(笑)。

字幕が入る。「お~髭よ!!髭も岡嶋が学校を出ると共に社会に出なければならなかった」って、髭は岡嶋と運命共同体なの?(笑)。髭ッ面のまま面接を受けにいくと、その会社には偶然にも、先日、岡島が助けた広子がいて、彼を社長室に通した。今日の岡嶋さんはスーツを着ている。顔をあげた社長が、岡嶋の髭を見てたじろぐ。なぜなら、彼もまた、髭ッ面だったのだ。ただし、岡嶋のそれと比較すると、社長のは貧相である。互いにバツが悪そう。ふたりの動きがシンクロする。岡嶋と髭は不合格となった。広子の助言で、岡嶋は髭を剃る。

岡嶋に寄生(?)していた髭がいなくなると、端正な顔が姿を現す。憑き物が取れたとは、このことを言うのだろうか(笑)。岡嶋が髭を剃らなかったのは、リンカーンの影響にされてのことだった。岡嶋の髭はリンカーンを模したものである。髭は女よけのお守りなんだそうだ。笑っちゃう言い分だけど、これは当たっていた。髭を落とした途端、岡嶋はモテモテ男になる。つまり、もともと岡嶋は美男子で、髭が彼の素顔を覆っていたのだ。

Lincoln.jpg
リンカーン

場所は変わって行本男爵家。兄が妹の幾子に歴代の偉人の写真を見せている。どの顔にも立派な髭が(笑)。これだけでは、説得できないと思ったのか、さらに、お金を取り出す。一円札、十円札、五円札、どの肖像も立派な髭をたくわえている。兄曰く「大蔵省だって かくの如く髭を奨励している」(爆)。妹の髭嫌いを直そうと、必死の兄。でも、そんな理屈が通るはずもない。そこへ、髭をおとし、美男子に生まれ変わった岡嶋がやってきて、ホテルに就職が決まったことを報告する。妹の表情が変わった。微笑んでいるではないか!ハイ、幾子さん、惚れてしまいました。岡嶋にホの字なのは、幾子だけではない。あの不良娘のモガも、そして広子も岡嶋に心を奪われいる。男も顔ね。リンカーンの魔除け説が真実味をおびる。ただし、広子は髭の存在の有無に関係なく、岡嶋を好きになったようだ。湯飲みを髭に見立て、自分の口にくっつける仕草が可愛い。

goenntakenouchi.jpg

本作は全シーンがギャグによって構成されており、どこを切り取ってもショートコントになりうる。岡嶋が久子の家を訪ね、部屋にあがる際、股引を伸ばして靴下に見せかけるのも可笑しいし、男爵令嬢の幾子と見合い相手が、ふられたショックから、彼女に襲いかかるシーンも愉快だ。騒ぎを聞きつけた母親が息子に「何という失礼なことをなさるんです!直接行動や暴力行為は上流のする事ですか!!」と、叱りつけた。目一杯気取っていた、上流のお坊ちゃまが、我を忘れていく様子を数コマに収める妙技に感心しましたですよ。果たして、誰が岡嶋のハートを射止めるのでしょうか?この映画の面白さを語り出したら止まらなくなるので、この変でやめておきます。最後の字幕がふるっている。「剃っても剃っても 生えるのは髭であるーアブラハム リンカーン」

タグ : 小津安二郎

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