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2011.09/21(Wed)

切腹

映画館で『一命』の予告を見た。「えっ、これって『切腹』のリメークじゃないの?」チケット売り場で渡された冊子にも、『一命』が紹介されていた。監督は三池崇史とある。この監督の作品を一作たりとも見ておらず、どんな作風なの全く、わかりませぬ。

予告と冊子と公式サイトを見て思った。「なんちゅうことをしてくれる!」私にとって『切腹』(1962)は邦画ベスト1作品。あの名作中の名作をリメークするとは・・・。大胆不敵なこと、この上なし。その勇気だけは褒めてあげませう。でも、解説の類には映画『切腹』の記載がない。原作はともに『異聞浪人記』だが、過去に映画化されていることに触れていないのは不自然。『切腹』の公開から50年も経てば、この映画を知る観客が少ないとよんだのかな?うがった見方をすれば、比較されるのを恐れた?映画の格の違いは火を見るよりも明らかである。

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監督:小林正樹
原作:滝口康彦
脚本:橋本忍
撮影:宮島義勇
出演:仲代達矢 岩下志麻 石浜朗 三国連太郎 丹波哲郎


 








激しくネタバレしています

監督は『人間の條件』『東京裁判』の小林正樹。脚本は『羅生門』『生きる』『七人の侍』『日本のいちばん長い日』などを手掛けた橋本忍。主演は仲代達矢。原作の短編時代小説を素材にはしているが、橋本忍の脚本は凝った話術を織り込み、仲代達矢の「語りの芸」をもって、本作を重厚な物語にたらしめている。仲代の底冷えするような目つきと声色に、尋常ならざるものを感じる。劇中の人物の表向きの顔と、その下に隠された複雑な内面との間の緊張関係がヒシヒシと伝わってくるのだ。

寛永七年五月十三日晴れ・・・。映画は「井伊家の覚書」の朗読で始まる。井伊家の日常の補足として、元芸州広島・福島家の浪人が訪ねてきたことに触れている。舞台が井伊家というのがミソ。初代は関ヶ原の戦いの際に、豊臣家に縁のある大名を徳川側につける工作をしたことで知られる井伊直政。画面は直政が着用したであろう甲冑と刀を大きく映しだす。モノクロ映像だが、おそらく朱色であろう。井伊家は赤備えで知られた武勇の家。(もっともこれは武田家の飯富虎昌の模倣、パクリ)芸州福島は豊臣秀吉の寵臣福島正則が創設した藩である。正則は関ヶ原の戦いで東軍側につき、戦後芸州を得たが、後に徳川家の策略によって改易(お家の解体)の憂き目に遭う。徳川の重臣である井伊家と、徳川家に滅ぼされた福島家。物語の背景にある両家の因縁を頭に入れておくと、さらに面白みが増すと思う。

さて、井伊家に現れた浪人(仲代達矢)。その後ろ姿は魂の抜け殻のようで、諦観の境地にあるようにも見えた。取次の者に、津雲半四朗(つぐもはんしろう)と名乗った上で「主家の没落後、生活は困窮し、志もないまま惨めに生きてきた。恥をさらすより、潔く切腹して果てようと思うので、井伊家の玄関先を貸してほしい」と願い出る。それを聞いた井伊家家老職の斎藤(三国廉太郎)は忌々しく思いながらも、半四朗と面会し「千々岩求女(ちぢいわもとめ)を知っているか」と問うた。半四朗は表情を変えず「存じませぬ」と答え、切腹の座につく。

徳川家光の時代の話である。大阪の陣の後、江戸には食いはぐれた浪人が少なからずおり、彼らの中には大名屋敷の門をたたき、「切腹」をちらつかせ、金を恵んでもらう輩がいた。井伊家の家老が口にした千々岩求女(ちぢいわもとめ)もその一人だった。井伊家は見せしめに、狂言と知りながら求女に、竹光(たけみつ)での切腹を強要したのだ。武士の情けどころか、武士の面目を踏みにじり、皆でなぶり殺しにした。武士にとって「切腹」は死の演出である。戦国の世は死ぬのが当たり前の時代だった。どう死ぬか、どうせ死ぬならカッコよくというわけで「おのれを潔くする」という意識につながっており、一種の美学といってよいだろう。天下泰平の世になった時、その美意識は武士道として受け継がれた。しかし、井伊家は「お家」の安泰をいいことに、武士道から外れた行為に走ったのである。大阪の陣を経験し、死を体感した半四朗には井伊家の仕打ちが許せなかった。求女(もとめ)は半四朗の娘婿だった。

庭先に坐した半四朗は介錯人を指名し、その到着を待つ間、求女(もとめ)と自分の身の上話を始める。映画は半四朗の回想を核に旋回していく。話の最後、笑顔ながらに語った事実に、井伊家の者たちは青ざめた。求女(もとめ)の死に深く係わった連中の負面目、不始末・・・死をもってあがなえと迫る。半四朗からみれば、実践の経験を得ぬ剣法は畳の上の水練、井伊家の家風も所詮、武士の面目だけを飾るものだと笑いとばす。理不尽な切腹を強いられた婿の無念を晴らすため、仇を切腹に追い込む・・・半四朗の復讐は手の込んだものであった。そして自らは武士の死に様を、井伊家の連中に見せつけて死ぬ。武士にとって刀は魂、半四朗はその刀を振りかざし、壮絶な斬り合いの後、切腹して果てた。

本作には原作を凌ぐ面白さと深さがある。仲代は呆けたような表情から絶望や怒りへと表情を変えて見せる。そこから、物語の進展を読もうとするも、意表をつく展開に予想は覆され続ける。仲代は自分の体温を帯びた言葉で語っていく。その語りは観る者を映画の世界へ引きずりこむ魔力をもつ。半四朗は、身なりはみすぼらしい浪人ではあるけれど、高潔さと精神の肉質のひきしまった存在感を感じさせる人物である。半四朗に武士の情念を見た。

この映画の素晴らしさは多岐にわたっている。複雑に入り組んだストーリー、脚本を埋め尽くす見事な台詞、陰影を映し撮るカメラ、悲壮に漂う尺八の調べ、そして他を圧する仲代達矢の渾身の演技。パーフェクトだ。原作にはない半四朗の立ち合いが三池崇史監督の「一命」にもあるようならば、「切腹」のリメークだと思う。映画「切腹」に触れない理由が知りたい。

テーマ : 邦画 - ジャンル : 映画

タグ : 映画感想

09:50  |  映画  |  TB(0)  |  CM(14)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

この映画もずっと前から観たい作品でした。
ゲオにはソフトがあったと思います。
足が治ったら借りに行きます。
橋本忍さんの脚本ではフラッシュ・バックで
過去を再現するのが結構ありますよね。
この映画もその手法が使ってありますか。
それにしても「一命」の宣伝にリメークと説明がないのは
けしからんですな。
小津作品「秋刀魚の味」に
この映画のポスターが写っていました。
アラン・墨 | 2011.10.24(月) 22:16 | URL | コメント編集

●アラン・墨さんへ

是非、是非、是非、ご覧になってください!!!
めちゃくちゃ面白いですよv-237
全てにおいて優れた作品だと思います。

橋本忍さんの脚本は素晴らしく、原作はあくまで素材であって、ストーリー展開の妙は原作をはるかに凌いでいます。
仲代さんの語りで過去を再現していて、それがまた、シビれるんですよー!
仲代さんにとって、この映画は特別な作品だそうで、生涯の一本をあげろと言われたら「切腹」だとおっしゃってました。

「一命」は「切腹」を真似て(冒頭などそっくり)作っていますが
市川さんでは物足りなさを感じます。
事件を起こした時の記者会見の時に見せた悲しそうな表情で演じています(苦笑)。
「一命」を良いと思った人に「切腹」を見せたいです。
雲泥の差がありますからね!

「秋刀魚の味」も面白いですねー。ポスターには気づきませんでした(・.・;)

PS:まだ、ご覧になっていないのに、ネタバレ記事を書いてしまって申し訳ないです。
一日も早いご回復を祈っています!
マーちゃん | 2011.10.25(火) 12:33 | URL | コメント編集

●「一命」はヒドイ!

名作「切腹」を汚された思い。監督も役者も演出も、雲泥の差を感じる。戸板に乗せて運び込まれた瑛太の死体なのに、呼吸に連れて腹が上下動するのは何!海老蔵も貫禄不足で、ただ目をむいて見せるだけの凡庸な演技。全体に緊張感がありません。残念な駄作でした。
酒上綾町 | 2011.11.08(火) 10:29 | URL | コメント編集

●酒上綾町さんへ

「一命」は残念な映画だと私も思います。「切腹」に思い入れがない若い映画ファンだったら、素直に受け入れることができるのでしょうけれど・・・。

仲代さんと海老蔵さんとでは、キャリアと歩んできた道が違いすぎます。
それが演技に出たのでしょうね。海老蔵さんは歌舞伎役者さんですから(汗)。
目をむくと思っていたら、案の定でした。

「切腹」は武士のあり方を問うていましたが、「一命」は何をいいたいのか、私にはわかりませんでした。
刀は武士の命、竹光で立ち回れば、単なる暴れ者です。
マーちゃん | 2011.11.08(火) 22:22 | URL | コメント編集

●リメイクなら、リメイクと表示しろ!

切腹、13人の刺客といい、リメイクなら明記してください。三池崇史監督、過去の映画人にリスペクトを!現在の映像技術を持ってすれば、2つの過去作品を超えるレベルでないと、納得できませんよ。より、エンターテイメントの仕上げにしてこそ、今、蘇る価値があるのに、名作を汚すなといいたい。「一命」を見て、「切腹」の凄さがわかります。アニメ等で過激な表現がお好きな監督らしいが、何故、三池崇史監督を持ち上げる方々が多いのか、理解に苦しみます。今の方は五社英雄さんも知らないのでしょう、だから、まがい物が出てくるのでしょうね。映画人なら、「人間の条件」を創られた小林正樹監督の名作「切腹」を知っていて作ったのですから、三池崇史監督の傲慢さとインチキさに呆れます。来年あたりに、「用心棒」「椿三十朗」も「助っ人」「ある浪人」などと、適当な題名を付けて、カンヌに出品ですか?
田中規夫 | 2011.12.02(金) 13:37 | URL | コメント編集

●やっぱりスゴイ!「切腹」

11月30日にBSで放映されました。テレビ画面で観たのは初めてで、できるだけ映画館で観て欲しいのですが…。それでも迫力と緊張感は抜群。監督、カメラ、役者、脚本、演出、音楽のどれをとっても一級です。お粗末なリメイク作品「一命」はやめて欲しかった。
酒上綾町 | 2011.12.02(金) 19:03 | URL | コメント編集

●田中規夫さんへ

三池崇史さんをウィキペディアで調べてみました。
Vシネマの出身なのですね。道理で・・・苦笑
要は激情型の映画が得意な人で、重厚な物語は苦手分野なのではないでしょうか。
「一命」でカラを破りたかったのでしょう。(墓穴を掘ってしまったかも・汗)
たくさんの映画を作っていらっしゃるようですが、1本たりとも見ていません。
タイトルだけ見ると、暴力を素材にしたものが多いようですね。

>三池崇史監督を持ち上げる方々が多い
へぇ、若者の支持を集めているのかもしれませんね。

>「助っ人」「ある浪人」
今度は黒澤監督をリスペクトでしょうか。あるかもしれませんよ(笑)

来年は「愛と誠」が公開されるとありました。
マンガアニメ路線に戻るみたいで良かったです。
得意分野で頑張ってほしいです。
マーちゃん | 2011.12.02(金) 21:21 | URL | コメント編集

●酒上綾町さんへ

私もBSで再見しました。
>迫力と緊張感は抜群
ほんと、おっしゃる通りです。仲代さんも、そして三国さんも迫力満点です。
仲代さんは色々な感情が目に出ていますし
三国さんは怒ると耳の下の筋肉が痙攣しているんですよね。
お二方とも、渾身の演技、バトルです!

市川さんは「切腹」を見て、お手本があったのに
どうしてあんな演技しかできないのでしょうか・・・。
半四朗を一から作りだした仲代さんは素晴らしいとしか言いようがありません。

「一命」をありがたがっている人もいるようですね(苦笑)。
映画の感想は人それぞれと思いますけれど
「切腹」に関しては明らかに「一命」より上等だと、私は言い切ります。
マーちゃん | 2011.12.02(金) 21:36 | URL | コメント編集

●とうとう観ましたぞー

見応えありましたねー。ああ面白かった。
井伊家と福島家の因縁。勉強になりました。頭に入れてもう一度観ます。
そうですか。仲代さんはこれを一番にあげるのですか。名演ですね。「一命」も比較として観てみたいです。

三國さんの立場も分からんでもないですね。

同じく小林正樹と宮島撮影監督、仲代出演の「人間の條件」は全巻録画しましたがまだ観ていません。どんなもんでしょうかね。
アラン・墨 | 2011.12.07(水) 16:45 | URL | コメント編集

●アラン・墨さんへ

ご覧になったのですね♪
「一命」の公開で、再び注目された本作、拙ブログも含めてネタばれの感想が氾濫しています(汗)。

私が初めて「切腹」を観た時は、何の予備知識も持ち合わせておらず、
ハラハラ、ドキドキしながら、話の展開を追っていました。
先が読めないし、仲代さんと三国さんは不気味だし(^_^メ)

福島家は気の毒な藩なのですよ。
関ヶ原の時、豊臣恩顧の福島家が東軍に加担しなければ
勝敗の行方はどうなっていたか・・・。
井伊直政というのが、福島 正則をそそのかして東側に引き込んだのです。
福島家の人間は、徳川政権なんぞ、認めていなかったのではないでしょうか。

三国さんの立場もわからないではないのですが、あの憎々さは何なんでしょう(笑)。
仲代さんと三国さんの演技合戦も見どころの一つですね。

「人間の條件」での仲代さん、これも圧倒されました。
私も全巻を録画しています。永久保存版です!
マーちゃん | 2011.12.07(水) 18:49 | URL | コメント編集

●「人間の條件」

小林正樹監督の「人間の條件」はホントに凄い映画です。後にこれをリメイクしたTV版の「人間の條件」は、主役の加藤剛の好演もあって、充分な見応えを感じさせました(お古い話でゴメン)。ですから、リメイク版にも優れた作品はいくつもあるんです。
但し何度も言いますが、「一命」はヒドかった。先日の朝日新聞のジョーク欄に「映画館に入ったら独りぼっち。タイトルを見て納得!イチメイだった」なんてのがありました。
酒上綾町 | 2011.12.13(火) 09:50 | URL | コメント編集

●酒上綾町さんへ

そうですね、リメイクでも良作はありますよねー。

>映画館に入ったら独りぼっち。タイトルを見て納得!イチメイだった」
ナイスジョーク!!
私が行った時は「十命」ぐらいだったでしょうか(笑)
マーちゃん | 2011.12.14(水) 16:19 | URL | コメント編集

●みなきゃよかった

繰り返し繰り返し何度も見た『切腹』のリメイク、ということで期待した作品ですが、残念ながら期待はずれでした。こういうリメイクjは作ってほしくない。
てんめい | 2012.12.21(金) 13:48 | URL | コメント編集

●承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです
 | 2013.05.18(土) 04:01 |  | コメント編集

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