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2012.04/19(Thu)

浮雲

昭和二十一年初冬。引きあげ船から下りてくる人たちの中に、幸田ゆき子(高峰秀子)の姿があった。画面は東京の焼け野が原を歩くゆき子を映す。戦禍を免れた家がわびしく点在している。ゆき子が一軒の家の前で足を止めた。表札には「代々木上原 富岡兼吾」の文字。来訪を告げると老婆が出てきた。おそらく、この家の主・兼吾の母親だろう。続いて妻らしき女性が、いぶかしそうな顔をして出てきた。名前を聞かれたゆき子は、一瞬、視線を落とし「農林省のものですけど」と答えた。すると、妻はゆき子の頭の先からつま先まで視線を走らせた後、疑念を込めて「はぁ?」と聞き返した。どう見ても、農林省の役人には見えないからだ。ゆき子は咄嗟に「使いにまいりました」と言って、兼吾を呼びだす。兼吾はゆき子に目配せし、外へ行く。ふたりが訳ありな関係であることを視線の動きが教える。巧みな表現だ。

ukigumo.jpg

「元気だね、仏印のことを思うと内地は寒いだろう」「電報ついて?なぜ、返事くださらないの」ゆき子は、ねっとりとした口調で聞く。ふたりの会話とフラッシュバック映像によって、おおよその状況がつかめた。ふたりが知り合ったのは、戦時中の仏印(フランス領インドシナ)。兼吾は農林省技師として働いていた。そこへ、ゆき子がタイピストとして赴任してくる。ふたりが深い仲になるのに時間はかからなかった。戦争の影も形も感じられない、洒落た洋館で働く職員たち。ゆき子は、この時の夢のような世界を引きずったまま、内地に引きあげた。戦後の混乱が、ゆき子の愛に拍車をかけたのだと思う。

兼吾はどうしようもない男だ。こんなヤツとかかわったら、ロクなことにならない・・・と、観客、いや、ゆき子自身が一番よく分かっているだろうが、どううしても別れられない。女にだらしなく、商売をすれば失敗する。ゆき子だって、褒められた女ではない。生活のためとはいえ、身持ちが悪すぎる。お互い、別の相手と肉体関係を持ちつつ、関係を続け、別れない。こういうのを腐れ縁と言うのだろう。刹那的な生き方しかできない男女の、捨て鉢な愛の描写が延々と描かれていく。江戸時代であれば、不義密通をした二人は、一緒に縛られて、重ねて斬られても文句は言えなかった。ゆき子と兼吾の恋愛には、そういう末路になりそうな危険をはらんでいる。

屋久島の営林署への赴任が決まった兼吾に「私も連れてって」と懇願するゆき子の愛がやるせない。長い長い旅路は逃避行のように見えた。行きついた先に幸せがあるとは思えない。途中、鹿児島で屋久島への船を待つゆき子が言う。「ずいぶん、遠い所へきたわね。ここからまた船に乗って一晩かかるなんて島流しみたい」「どうだ、帰るんなら、ここからちょうどいいよ」と、冗談とも本気ともつかない台詞をはく。この期に及んで、まだそんなこをと言う兼吾は大バカだ。

ふたりの屋久島行きは、ゆき子が病気になり、後らすしかなかった。病床にありながら、置いて行かれるのではないかと心配するゆき子が痛々しい。兼吾とめぐり会わなかったなら、どんな人生があったのだろう。はたから見れば、不幸な女と映るゆき子だが、真実の愛を知ったと思えば、少しは慰めになろうか。切ないなぁ。哀しいなぁ。小舟の中でふたり抱き合うように佇む姿が、観客をさらなる深みへと連れ込む。視覚的、感情的に力のある場面が続き、最後、ゆき子は死ぬ。愚かなふたりの愛が当時の世相を投影しているのかもしれない。戦後の荒廃を映画は語る・・・。紛うこと無き秀作。

タグ : 成瀬巳喜男

08:20  |  映画  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●岡田まり子

まり子←漢字が出しにくいのでヒラガナにしました。
で、その彼女が演じている女性の女心が理解できません。
あんなふうに一目ぼれでよろめいて即、男性と温泉に入れるものだろうかと疑問を感じています。なんか、私には謎の不思議な女性なんですね。

高峰秀子ファンとしては、この映画は彼女の憂鬱な表情ばかり見せられ、最後の死に顔もツライです。
アラン・墨 | 2012.04.22(日) 14:38 | URL | コメント編集

●アラン・墨さんへ

ほんと、岡田さんの気持ちは、わかりませんね。夫の加藤さんのことが嫌いになっていて、離れるきっかけが欲しかったのかも・・・。
それにしても、殺されてしまうなんて、哀れです。

高峰さん、素晴らしい演技でした。ファンの方には、辛いシーンの連続だと思います。
仏印時代の、オシャレでハツラツとしている姿が描かれているだけに、臨終シーンが可哀想でなりません。
最近、成瀬作品をボツボツ観ているのですが、どれもハッピーエンドじゃないんです(T_T)
マーちゃん | 2012.04.22(日) 23:26 | URL | コメント編集

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