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2012.04/09(Mon)

父ありき

物売りだろうか、荷を背負った者たちが、土塀の続く道を歩いている。小津監督らしい絵画的なショットで、映画の幕が開く。続いて、一軒の家の朝の風景が映される。袴姿の少年が口笛を吹きつつ、干してある手ぬぐいに手を伸ばし、それを帯に挟んだ。手慣れた感じがよく出ている。「お父さん、靴墨もうのうなった」父親は出勤準備の手をやすめることなく「そうか、じゃぁ、今日買ってこよう」と答える。なにげない親子の会話がふたりの平穏な生活を語っている。母を亡くした堀川周平(笠智衆)は男手ひとつで息子の良平(津田晴彦)を育ててきた。周平は金沢の中学校の教師、良平は小学六年生。連れだって歩く後ろ姿が微笑ましい。親子だなぁ。。。

周平の授業風景を、小津監督ははしょらず見せてくれる。「AECの角度がBCDと等しく・・・二等辺三角形になるから・・・」映画で幾何学を学ぶとは(笑)。『長屋紳士録』の覗きからくりもそうだったが、全部やりきっていまうところが小津さんらしい。背筋を伸ばしテキパキと教えていく周平を演じる笠さんの、さっそうとした姿。いつもの温和な笠さんとは別人のようだ。事業を終えた周平先生は、生徒たちに修学旅行の注意点を伝える。東京、湘南、箱根の旅。東京では明治神宮と靖国神社に参拝すると言っている。戦時色濃厚な時代の作品だけに、小津監督も、それなりに気を使ったようだ。滅私奉公というテーマがちらつく。しかし、静寂にみちた本作を、国策映画の部類に入れてしまうのには無理がある。小津監督の世界は、しっかり守られていると私は思う。

修学旅行の生徒たちは、鎌倉の大仏の前で記念写真を撮る。小津作品において、記念写真は別れの儀式であり、家族の離散や死を暗示する。本作では生徒の一人が、ボートで芦ノ湖に出た生徒がおぼれ死ぬ。責任を感じた周平は、教師の職を辞し、息子を連れて故郷の信州・上田を訪ねる。周平は金沢を引き上げ、村役場で働くことになった。父の決めたことに、息子は素直に従う。小さな寺の一室で針仕事をしながら、息子に勉強を教える父が、なんともユーモラスだ。頭の油を針につけて縫い物をしている。笠さん、『ひとり息子』では、割烹着を着ていたっけ(笑)。

chichiariki.jpg

周平は良平を中学、そして大学まで行かせるつもりだ。中学は家から離れた所にあるため、良平は寮へ入ることになった。これが親子の別れの始まりだった。父は息子を学校へやるため、給料の良い東京の仕事に就く。卒業後した良平は仙台の帝大に進み、秋田で教員の仕事を得た。一緒に住むことを強く望みながら、叶わない親子。それだけに、たまに会った時は、遠距離恋愛中の恋人同士のように振る舞う。温泉旅館では、一緒に湯につかり、近況を楽しそうに話す。釣りをするシーンの同じ動作の反復は、観る者に親子の気絆を深く印象付けるものとなっている。良平の父への気持ちは募るばかり・・・。秋田での仕事をやめ、父親と東京で一緒に暮らしたいと言いだす。それを聞いた周平は「そんなことは考える事じゃない。そりゃ、お父さんだってお前と一緒に暮らしたいさ、だが、そりゃ仕事とは別のことだ。いったん与えられた仕事は天職だと思わないといかん、人間は皆、分がある。その分は誰だって守らにゃならん・・・・」と諭すのだった。ここは本作の山場で、時代の空気を背負っているような台詞が続く。自分が成し遂げられなかったことを、息子に託す気持ちも読み取れる。

周平の言葉を素直に受け入れた良平が、次に父に会うのは徴兵検査に合格し、上京した時だった。父は良平に金沢時代の同僚の娘ふみ(水戸光子)との結婚を勧める。照れながら、ここでも息子は父に従う。短く刈られた良平の頭を見て、戦時中であることを再認識させられた。小津作品には説明が入らない。こうしたショットの断片をかき集め、状況をつかんでいかねばならない。描かれていない余白を埋めていくのは観客の作業なのだ。

良平の滞在中、父が突然倒れた。画面は病院の庭に変わる。手入れの行き届いた芝生には、鉢植えの花とジョーロ、白い犬小屋(?)が置かれている。これは『麦秋』の中で淡島千景さんが言ってた世界だ。およそ、病院らしくないモダンな光景は、何を語っているのだろう。カメラは病室へと入り、ベッドに横たわる周平を映す。傍らには良平とふみ、周平の元同僚、かつての教え子の姿がある。「お父さん、お父さん、わかりますか?」という呼びかけに、かぼそい声で「いい気持ちだ、眠い、良平しっかりやりなさい、何も悲しいことはないよ、父さんは出来る限りのことはやった、私は幸せだ」とつぶやきながら次第にまどろみ、そして息絶える。穏やかな最期。しかし、鮮明に描かれた臨終シーンに涙が出てきた。尊厳ある死であっても、やはり悲しい。秋田へ向う夜汽車に良平とふみが向かい合って座っている。おそらく、結婚したのだろう。良平はふみの父親と弟を秋田に呼び、一緒に暮らすつもりだ。父との別れを経て、良平は新たな家族をもつことになった。網棚に置かれた父の遺骨が若夫婦を見守っている・・・。
09:40  |  映画  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

>小津作品には説明が入らない。こうしたショットの断片をかき集め、状況をつかんでいかねばならない。描かれていない余白を埋めていくのは観客の作業なのだ。
・・・さすが。小津映画の観かたはこれ一行で説明できますね。

私が観たVTR版はラストシーンの画質と音声が不明瞭で、客車で佐野周二さんがニコニコしながら口も動かさず喋っているように見え、奇妙な感じでした。

笠さんが倒れるシーンは名演技ですね。脳溢血?はどうゆう症状なのか大分研究したみたいです。
アラン・墨 | 2012.04.10(火) 11:20 | URL | コメント編集

●アラン・墨さんへ

最近はテンポが早い映画についていけなくなりました。
じっくり、噛みしめながら観れる小津作品が、心に沁み入る今日この頃です。
説明の多い映画は苦手です。字幕やナレーションを追っていると、映画の中に入っていけなくなるんですよね。

私は廉価版のDVDで見ました。確かにちょっと不明瞭かも(^.^)/~~~
でもでも、それがまた、作品の味となっているように感じました。
佐野さん、ニコニコしてましたね(笑)。素直な青年ということで。。。

笠さん、元気そうだったのに、倒れてしまいました。脳溢血とは、ああいう症状なのですね。苦しみが長く続かない最期でしたが、死ははやり悲しいです。
マーちゃん | 2012.04.10(火) 14:45 | URL | コメント編集

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