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2012.04/15(Sun)

早春

「○○冠」のネオンサインが消えかけている。通りはまだ暗い。静寂を破って走りぬけていく列車の轟音が、一日の始まりを告げる。続いてカメラは一軒の家の中を映す。ここでは、目ざまし時計のベルが朝の合図。杉山昌子(淡島千景)はゆっくりと身を起こし伸びをする。ゴミを捨てるため外に出ると、隣に住むたま子(杉村春子)と出くわした。「おはよう」「おはようございます」「ゴミ屋来なくて困るわね。」「ほんとに」区役所、何してるんだろう」。と、当たり障りのない言葉が飛び交う。家に入った「たま子」は夫にも、ハバカリ(便所)の電球を買ってくるのを忘れるなとか、流しの水をよく流しておけだの、他愛のない会話を続けている(笑)。どこにでもある日常を切り取ったショット。ドラマチックが出来事が起こる映画とは思えない。それでいいのだ。小津作品にストーリーはいらないのだから。

昌子の夫・正二(池部良)は、なかなか起きようとしない。「もう時間ぎりぎりよ」と言われ、やっとお目ざめだ。時計を確認し「なんだい、まだ五分もあるじゃないか」と言っている。このふたり、まち子(杉村春子)たち夫婦のような、渋い関係になるには、まだまだ年月がかかりそう。かと言って、お熱い関係にも見えず、要は倦怠期に入った夫婦なのだ。昌子は夫に「つっけんどん」な態度をとっている。

画面は駅に向う人々の群れを映す。黙々と、皆、同じ速度で歩いている。路地から人が次々と湧いてきて、駅へと吸い込まれていく光景は、リアルな描写とは言い難い。これは、朝の通勤風景を抽象化した映像である。同じような背広やスーツに身を包み、9時から5時まで拘束されるサラリーマンの窮屈な生活が伝わってくる。構内には「八時二十八分 蒲田始発大宮行きでございます」のアナウンスが、繰り返し流されている。蒲田始発・・・始発というのがミソ(笑)。杉山の最寄りの駅は蒲田だとわかる。

プラットフォームの人だかりの中で、正二(池部良)は通勤仲間と挨拶を交わす。彼らは一緒にハイキングしたり、マージャンしたり、鍋をつついたり、楽しくつきあっている。正二は、この中のひとりの女性・金子千代(岸恵子)と、一夜を共にしてしまう。女は感が働く。口紅の付いたハンカチを処分し忘れる正二の迂闊さが、夫婦の危機を呼ぶ。んっ?もとい!正二の浮気が夫婦の危機を招いた。

sousyun.jpg

本作には夫婦生活と会社員生活の起伏が描かれている。昌子と正二は熱烈な恋愛の末に結婚し、子供が生まれたものの、その子は疫痢で死んでしまったことが、さらりと触れられている。若い正二の月給は多くない。昌子は生活をきりもりするのに精一杯で、生活を楽しむ余裕などない。亭主は結婚した頃の輝きを失くし、生活臭をプンプンさせている。あげくに浮気・・・昌子(淡島千景)は激怒し実家に帰ってしまう。

金子千代(岸恵子)は、昌子と正二夫婦の溝を深める存在として登場する。が、サバサバしていて、深刻な三角関係に発展する気配を感じさせない。おそらく、小津監督は夫婦問題も含めた、小市民の閉塞感を描きたかったのではないだろうか。日本経済の高度成長は既に始まっていたが、敗戦の残影も色濃くあった時代のように思う。正二は会社仲間、通勤仲間の他に、軍隊時代の仲間とも付き合っている。彼らとの宴会シーンが笑える。手拍子をとり、体を揺らしながら「ツーツーレロレロ ツーレーロー ツレラレトレ ファンランラン 君と僕とは卵の中よ 僕は白味で君を抱く・・・」と歌っている。例によってフルコーラスだ。話がしめっぽくなると、この「ツーツーレロレロ」で場を盛り返す(笑)。景気づけの歌なのだろう♪ 

映画にはサラリーマン生活の侘しさ、味気なさ、哀しさを示すエピソードが次々と挿入されている。丸ビル勤務を喜ぶも、病を得て死んでしまう同僚、社内闘争に敗れ左遷された元上司、脱サラし喫茶店を営む男、定年まじかの寂しそうな初老男、安月給を嘆く男などなど。小津監督はストーリーを紡ぐのではなく、ショットを積み重ねることによって、サラリーマンの抜き差しならぬありようを示している。植木等さんは「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」と歌っていたが(笑)。

サラリーマンは会社の指示通りに動かねばならない。地方への転勤を命じられれば、それに従うしかないのだ。小津監督は、手っ取り早く正二の転勤で幕を引く(笑)。「ストーリーを重くみない」と発言した監督にとって、劇的な幕切れは意味をなさないのだろう。正二は都会の喧騒から離れた場所で今までの自分を見つめ直し、再生を誓う。その傍らには昌子がいた。

タグ : 小津安二郎

09:45  |  ジャック・ニコルソン  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●金魚好きです。

私には岸恵子さんが一番かわいく見える映画です。同時期の「雪国」の駒子より好きです。
小津映画でも珍しいキスシーンがありましたね。

蒲田駅ホームで並んでいる人みんなが、電車の方を一斉に見ているのはヘンだと竹中直人が指摘していました。

私は田中晴男や須賀不二男という課長クラスでもいい歳の人物が、独身の平社員ヅラしているのがヘンに見えました。
そういうツッコミどころも含めて好きな映画です。
アラン・墨 | 2012.04.18(水) 11:33 | URL | コメント編集

●アラン・墨さんへ

金魚ちゃん、可愛かったですね。私の家には、本物の金魚がいますよ♪昨年の6月から我が家の住魚です。岸恵子さんに負けず劣らずの可愛さです。って、岸さんに失礼ですね。
「雪国」・・・観たような観ていないような、うーん、思い出せません。

キスシーンありましたねぇ。小津さんにしては過激な演出です(笑)。
朝の通勤風景に限らず、小津作品にはヘンなシーンが多いです(笑)。人工的なものを描くことで、伝えたいことがあるのかもしれませんね。

この映画に出てくる人はみんな、出世コースから外れているのか、老けて見えるのかも(*^。^*)b 

いろいろとツッコミどころを探して観るのも楽しいですね!宴会の合唱もヘンだけど、小津さんの描く宴会シーンは楽しくて好きです。
マーちゃん | 2012.04.18(水) 20:07 | URL | コメント編集

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