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2012.06/03(Sun)

一枚のハガキ

昭和19年夏、天理教本部に掃除部隊として、呉海兵団100人が集められていた。将校らしき男は、任務を終えた彼らのことを「おっさん部隊」と呼んでいる。国民兵が召集されるほど、戦局は悪化していたということだ。掃除が終わったのだから、故郷に帰してやればいいと思うのだが、戦時中ではそうもいかない。100人は次なる命令を受け、60人はフィリピンのマニラに陸戦隊として、30人は潜水艦の乗務員として、10人は宝塚に掃除部隊として、それぞれの任務に就くことになった。その振り分けは上官のくじで行うというのが、なんともやるせない。

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この映画は100人の中で生き残った新藤監督の、実体験をもとに作られている。新藤監督は『愛妻物語』で亡くなった妻のことを、『落葉樹』で母親のことを、『石内尋常高等小学校 花は散れども』で自分の少年時代を描いてきた。そして、最後の映画で戦争未亡人のことを取り上げたのは、それが生き残った者の使命だと思ったからだろう。家族への感謝を映画にしてきた監督が、大事な家族を奪ってしまう戦争の悲劇を渾身の力を込めて訴えている。

松山啓太(豊川悦司)は、戦友の森川定造(六平直政)から一枚のハガキを見せられる。「今日はお祭りですが、あなたがいらっしゃらないので 何の風情もありません 友子」それは定造の妻からのものだった。この短い文面が伝えるものは重い。夫婦は毎年、祭りを一緒に楽しんでいたのだろう。ささやかな幸せがあったに違いない。戦争はふたりの日常を奪い、夫は命までも奪われようとしている。フィリピン行きが決まった森川は死を覚悟し、松山にハガキを預けたのだった。友子にハガキを見たこと、そして、例え死んでも霊魂となってお前の元に戻ってくると伝えほしいと・・・。

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フラッシュバックによって、出征の様子が映し出される。「祝出征 森川定造」のノボリと、わずかな村人たちに見送られた森川は、同じ場所で同じメンツによって、英霊として迎えいれられた。日本中でこのようなシーンが繰り返されたのだろうなぁ。天涯孤独な人というのは少ないだろうから、死んだ人の数だけ悲しみがあったと思う。残された人々にとって戦争は、玉音放送で終わらせられるようなものではなく、その後も悲しみと苦しみは続いたに違いない。名誉の戦死と褒められて、喜ぶ遺族はいないだろう。友子(大竹しのぶ)は憮然としている。ナタをふりおろし薪を割る姿が、大根を乱暴に切る姿が、戦争への怒りを表している。新藤監督はセンチメンタリズムに走るような演出をしない。泣き崩れるだけが悲しみの表現ではないのだ。友子は一緒に暮らしている舅(柄本明)と姑(倍賞美津子)の願いを聞き入れ、次男の三平(大地泰仁)と再婚するが、彼もまた、招集され帰らぬ人となった。気落ちした舅は心臓発作で死に、後を追って姑は首を吊る。戦争によって一家が消滅してしまった。

それから数年が経った。絶望の中で暮らす友子のもとへ、生き残った啓太がハガキを持って訪ねてくる。啓太も戦争に人生を狂わされた人間である。戦争が終わって広島に広島に帰ってみると、妻は実の父と駆け落ちし、家はもぬけのカラだった。気持ちの整理をつけられない啓太は、日本を離れブラジルへの移住を決意する。その前に戦友との約束を果たすため、やってきたのだ。友子は亡き夫の戦友をもてなす。といっても、水道も電気も引けないほどの赤貧生活を送る友子に、満足な接待はできないが、食事を出し、川から水をくんできて風呂を沸かす。天秤棒で水を運ぶシーンが『裸の島』の、それと重なる。なお、『落葉樹』に出てきた大蛇の舞いは、本作でも披露されていた。

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亡くなった定造の話をするふたり。ここからは舞台劇のような演出になっている。新藤監督は、お互いの感情を吐露したような激しい台詞を掛け合わせ、そのやりとりを白熱させていく。時に大竹さんは、ここぞという肝心な瞬間に、映画ならではの鋭い緊張を、画面の隅々にまでゆきわたらせ、観る者の感性にゆさぶりをかけてくる。新藤監督は溝口健二監督に「芝居は大きくかきたまえ」と言われたそうだ。芝居を誇張するということの核心は「構成をひきしめる」ということらしい。

啓太と話すうちに「戦争の呪いつつ、この場所で野垂れ死にする」と言っていた友子の心に変化が生まれる。ブラジルへ行く啓太を「弱虫!ブラジルに逃げていくんですか、94人の魂が許しませんよ」と罵る。死んだ者は不幸だ。そして生き残った者もまた、生かされていることに苦しむ。死のうが死ぬまいが、戦争は不幸な人間を生み出す。だから、戦争はしてはいけないのだ。そういう簡単なことがわかっていないから、今もって地球上から戦争が消えない。

心を通じ合わせた友子は啓太は、一緒にブラジルへ渡ろうとするが、いざ、家を出る段になって混乱をきたす。抑え込んできた気持ちが爆発してしまったのだろう。戦争でめちゃくちゃになった家は、友子の過失によって燃えてしまった。焼け跡に残されたふたりは、逃げることを止め、今自分たちが立っている大地に根をはって生きる覚悟をする。一歩、一歩、懸命に生きてゆく・・・こういう力強さが命をつないでいくのだと思う。

タグ : 新藤兼人

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